高校生が6万円が入った財布を失くして困っていると、通りがかりの見知らぬ男性が6万円を差し出してくれ、後日その高校生が新聞を通してその親切な男性を探し出し、ついに感動の再会を果たした・・・という美談が少し前に話題になっていました。
それ以来、どこかに美談ないかな~と期待しながらの生活になっていたのですが、つい先日電車に乗っていた時のことです。
出勤の際に岡山から乗りドアの近くに立っていたのですが、そのスペースもかなりの混雑具合でした。
しかし倉敷の1つ前にある中庄という駅で多くの人が降りると、一転してがらんとした状態になってしまいました。
そしてドアが閉まり電車が出発してから間もなく、となりにいた老人が急にドアの方に歩き始めたので目を向けると、彼は腰をかがめて床に落ちていた皺くちゃのティッシュを拾っているところでした。
人混みの中の誰が落としたか分からない、いわば得体の知れないごみを拾うなんてなかなか真似できることじゃない、これは美談の予感!とばかりに期待に胸を躍らせていたのですが・・・
速攻でそのティッシュで鼻をかんでいたのには、不覚にも吹き出してしまいました!
おっと、これは美談ではなく鼻談でしたね。
ちなみに話を前述の美談に戻すと、ぼくも1回だけ財布を落としたことがあるのですが、あれはたしか2006年、鳥取大学の脳神経小児科で働き始めたばかりの4月の終わりの出来事と記憶しています。
その日は土曜日だったので仕事は休みで、土日に東京で予定があり新幹線で向かっている途中でした。
職場にはその東京行きの件は伝えていなかったのですが、京都を過ぎて少し経った頃に電話がかかってきた時、着信がその職場からだったので思わず息を飲んでしまいました。
しかし、東京行きについては自分からわざわざ言わなくても大丈夫だろうと、ごく軽い気持ちで電話に出たところ、
「もしもしIです、小野先生ですか?」
とかけてきたのは医局長のI先生でした。
「はい、小野です。どうされましたか?」
決して内なる動揺を悟られないよう、つとめて冷静に応答したつもりだったのですが、
「先生、今どこにいますか?」
といきなり核心を突いてこられた時には、あっけなく固まってしまいました。
「・・・」
そして、新幹線ですと正直に答えようかと迷っていると、
「新幹線ですか?」
とズバリ指摘された時には驚きを通り越して恐ろしくなり、どこかから見られているのでは?と周囲をキョロキョロと見回し、はっきり言って軽いパニック状態でした。
しばらくこちらが黙りこくっていると、
「実は今日は日直をやっているんですが、先程JRの人から電話があったんですよ。新幹線で財布の落し物があって、中に職場の連絡先があったのでかけてきたみたいです。どこかにお出かけなんですか?」
「はあ、実は東京に用がありまして・・・」
とほとんど放心状態で答えながら、たしかにポケットをさぐると財布がなく、結局東京行きはバレてしまい、お土産を買わなければならなくなってしまいました。
というわけでJRに電話してみると、財布が届けられたのは京都駅で、その駅でないと受け取ることはできない、とのことでした。
そこで翌日の帰りの便で寄ることにしたのですが、しかし落としたのは一体いつなのか・・・?
その日新幹線に乗ってからの記憶をゆっくり辿っていくと、そうか、あの時か、と思い当たる節がありました。
岡山からは新幹線の自由席の通路側に座り出発していたのですが、京都で窓側にいた人が降りる際、立ち上がって一回通路に出て窓側に移動したのでした。
おそらくその時にポケットから財布が通路に落ちてしまい、それを拾った人が京都駅に届けたというところではないかと・・・
いや~まいったな~と苦笑いしながら、現在自分の置かれている状況を改めて考えてみると、これから東京に行くというのに一文無しという現実にがぜん緊張感は高まり、幸いにも新幹線のチケットは無事だったので、名古屋からUターンして帰っちゃおうかなと弱気になる程でした。
なぜなら、最近でこそスマホや電子マネーがあれば財布なんて不要ですが、当時はまだそんな便利なものは生活の一部にはなっておらず、まさに掛け値無しの一文無しだったからです。
子どもの頃は、岡山市の中心部の街中に遊びに行くのに、300円ぐらいしか所持金がなくても全く平気でしたが、いつだったか街中で財布を見たらお札がないことに気付いた途端にうろたえてしまった時、大人になったことを強く実感したものでした。
それが今回ははるか東京まで行くというのに一文無しなんて・・・
名古屋でUターンして京都で財布を受け取り、そこから再度東京まで行くことも考えましたが、それだとクレジットカードの類はともかく、余計にかかる交通費の方が財布本体と中身よりも高くつきそうでした。
というわけで結局はそのまま東京に行ってしまい、なんとか土日を過ごしてついでに職場へのお土産まで買い、無事に東京を発つことができました。
やれやれ、人生なんとかなるものだなあと一安心していると、その帰路に寄った京都駅では、財布を受け取るには改札口を出なければならず、新幹線のチケットが途中下車無効だったので再度買い直す羽目になり、さらには拾い主からお礼をmaxで要求されていることが発覚し、やっぱり人生は厳しいなあと改めて思い直した次第です。
今後ともよろしくお願いします。
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落とし物
2019年05月31日