このたび友人が新天地に旅立つことになりました。
思うことはいろいろとありますが、しんみりとしたお別れは彼には似つかわしくありません。
というわけで、今回は彼との思い出の中で最も楽しかったエピソードを振り返ってみたいと思います。
・・・あれは今から2年前、なぜか突然に外車に乗りたいという考えが頭に浮かんできたものの、それまでずっと国産車しか乗ったことがなく外車オンチだったぼくに、親切に外車の手ほどきをしてくれたのが他でもない彼でした。
そしてある日曜日、朝から晩まで彼と一緒に外車ディーラーを回って試乗のハシゴをしました。
もちろん外車を運転すること自体も初めてだったのでとても楽しかったのですが、それよりもさらに面白かったのは・・・
彼とディーラーの担当者との目に見えない斬り合い-車の知識という剣と剣のぶつかり合い-でした。
ほとんどのディーラーの担当者は最初は余裕をかましていたものでしたが、彼からのマニアックな質問攻めの前に徐々に本気になっていくのが手に取るように分かっていきました。
その結果、最後には
「あなた、本当にお詳しいですね」
と降参する場面を何度も見続けたので、段々と道場破りならぬディーラー破りをしているような錯覚に陥ってしまったものでした。
ちなみにその日は当初の予定では5つのディーラーをめぐるつもりだったのですが、4つ目のディーラー破りを終えた時点で日が暮れ始めていたのと、さすがに疲れで集中力が低下し始めていたこともあり、最後に計画していたランドローバーはもうキャンセルしようかとかなり迷っていました。
しかしせっかくなのでそのまま突撃することにし、
「たのもう」
と中に入って待っていると担当者が登場したのですが、現れたのはまだ若い女の子、しかも笑顔がとびきり爽やかなショートカットの美女だったので疲れも一気に吹き飛び、キャンセルしなくて本当によかったと思わずニンマリしてしまったものでした。
というのも、なにせそれまでに回ってきたディーラーの担当者はオッサンばかりだったからなのですが・・・しかし感激に浸っていられたのも束の間、自分達は所詮はディーラー破りの身で、残念ながらディーラーとディーラー破りは宿敵同士、永遠に交わることは許されない関係であることを思い出してしまいました。
ああ彼女もまたこれまでの担当者と同じように無残に彼に斬られるのか、、、と想像すると、笑顔で対応してくれているその娘が気の毒で仕方ありませんでした。
そんな中で試乗に出発すると、これまでと同様に彼から容赦のない質問という剣が抜かれ、勝負が始まったのですが・・・
意外にも彼女は見事な剣さばきで善戦し、この日出会った担当者の中では最も彼と互角に渡り合い、その姿はまるでリボンの騎士のサファイアを彷彿とさせる程で、ぼくはすっかり感心してしまいました。
一方、相手が女性だからといって全く手を抜かない彼のフェアな精神もまた見事で、ラストにこんな素晴らしい真剣勝負を見ることができ感無量でした。
そんなわけで最後のディーラー破りは引き分けかな?といった感じでしたが、帰ろうとした時には辺りはもうすっかり暗くなっていて、ディーラーの前の道路もかなり混み合う時間になっていました。
本当は右折で出て反対車線に乗って帰りたかったものの、交通量が多くとても無理そうだったのであきらめ、左折で出て遠回りをして帰ろうとしていたところ、
「どちらに出られますか?」
と彼女から訊かれたので、
「右に出たいんだけど・・・」
難しそうだから左に出るよ、と全てを言い終わる前に彼女は
「分かりました!」
と口にして道路の方に小走りで向かうと、車が行き交っている道路の真ん中に飛び出していくではありませんか!
一瞬彼女がオームの大群の前に立つナウシカと重なって見えましたが、オームは止まらずにあえなく跳ね飛ばされたナウシカとは違い、なんと彼女の場合は車の流れがぴたっと止まってしまいました!
それから彼女は
「どうぞ」
という感じでにっこりと笑い、右折で出るように手で案内してくれていました。
ぼくらといえば予想外の展開にポカーンとしていましたがなんとか我に返り、彼女がモーゼのように切り開いてくれたスペースを会釈しながら右折して抜けて帰りました。
その後、彼女のあまりにも思い切った行動に、
「さっきのって・・・あの娘みたいに美人じゃなかったら絶対に轢き殺されてましたよね」
と彼と感想を述べ合ったものでしたが、最後の最後でディーラー破りは引き分けではなく、完全に敗北であったことは認めざるをえませんでした。
なおこの試乗めぐりは100%ぼくの用事なのに、彼はわざわざ愛車のトゥアレグを出してくれたのですが、どこのディーラーを訪れても担当者の開口一番は、
「お車、湘南ナンバーなんですね!」
というものでした・・・彼は実家が神奈川県で、車は堂々の湘南ナンバーなのです。
「そういえば、どのディーラーもつかみは湘南ナンバーでしたね」
と湘南ナンバーのおかげで心強かったことを伝えると、
「そうなんですよ、実はディーラーはどんな車で来たかをしっかり見てるので、国産車で行くとなめられちゃうかなと思って・・・それで車を出させてもらったんです」
と彼は申し訳なさそうに真意を教えてくれました。
お恥ずかしながらその時初めて剣だけでなく車でも彼に守られていたことを知り、ディーラー破りの番外編で思わず涙腺も破れてしまいそうでした。
今後ともよろしくお願いします。
クリニックブログ
ディーラー破り
2017年09月30日