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独りビブリオバトル

2019年03月26日

2017年の最後に書いた「1年の余韻」という回で、浅見光彦についての独りビブリオバトルを来年の(今となっては昨年の)なるべく早い段階でこのブログ上で行うと誓っていたのですが・・・
やっぱり全作品を読破してからと軌道修正した結果、内田康夫先生の命日である3月13日に最後の事件「遺譜」を読了して有終の美を飾ることにしたので、こんなにも大幅に遅くなってしまったのでした。
ということで浅見光彦シリーズの魅力、そして楽しみ方について独自の見解を披歴させていただき、もし誰かの心に少しでも何か届いたとしたら、いちファンとしてこんなに幸せなことはありません。

では浅見光彦シリーズの魅力とその楽しみ方について。
まず極めて個人的な見解かもしれませんが、浅見光彦シリーズは推理小説ではありません!
いきなりの問題発言かもしれませんが、少なくともぼくはこのシリーズをずっと冒険小説と思いながら読んでいました。
通常の推理小説では、物語の早い段階で登場人物が出揃い、話が進むにつれて謎が解明され犯人が分かるという構造になっています。
つまり展開の基本的なイメージとしては、終盤に向けて徐々に収束していくのが一般的です。
その点浅見光彦シリーズは、物語が進むにつれて浅見が時空間を超えて縦横無尽に動き回り、次々と新しい人物が登場してくるためイメージとしては明らかに拡散になります。
浅見がいろんな人から話を聞いて回り情報を集めるのはまさしくRPGのようでもあり、また最後の最後に出てきた人物が真犯人という話も少なくなく、これが普通の推理小説なら「ふざけるな!」と一喝したい衝動にかられるところですが、このシリーズだとついにラスボス登場!といった感じでむしろ感動すら覚える程です。
そんなわけでポイントその①、
”浅見光彦シリーズは冒険小説である”

次に浅見光彦シリーズの特異な点として挙げられるのは、信じがたいことに内田康夫先生がプロットを決めずにアドリブで書き進めているところです。
その結果として細かい部分の完成度は宿命的に低くなっている分、物語がぐいぐい進んでいく勢いがハンパなく、ストーリーそのものが面白いためページをめくるのが止められなくなります。
通常の推理小説では「犯人は誰か?」とか「どんなトリックなのか?」といったことに重きが置かれ、事件の背景となったストーリーは二の次といった観がありますが、浅見光彦シリーズにおいては極端な話として犯人など誰でもよく、トリック的要素なんてない作品の方が圧倒的に多いのです。
すなわち犯人やトリックがメインとすれば、ストーリーはおまけなのが普通の推理小説ですが、浅見光彦シリーズはストーリーが完全にメインで、犯人やトリックはおまけといっても過言ではありません。
また前述のポイント①で述べたように、浅見光彦シリーズでは終盤になってようやく出てきた人物が犯人という話も決して珍しくないのですが、このシステムの最も優れた点は、犯人が序盤から登場していた意外な好人物であった場合に比べ、裏切られたと感じたり人間不信に陥ることがないことです。
そしてこの点も、最後に余計なところで切なくなったりすることなく、読者がストーリーそのものに没入できるのに一役買っているような気がします。
そんなわけでポイントその②、
”浅見光彦シリーズは事件そのものが面白い(犯人やトリックなんてどうでもいい)”

それから浅見光彦の設定についてですが、これはもうほとんど変態の領域です。
通常の推理小説における探偵というのは、基本的には警察と一緒に事件を追っていくので(というか警察そのものというのも実に多いです)、事件に関する基本的な情報が何の苦労もなく入ってきます。
それが浅見の場合は警察とは別に単独行動で事件を追っていくので、普通の探偵であれば簡単に入手できる当たり前のデータすら分からないことが多々あります。
その穴を埋めるための彼の最大の武器が、ソアラで日本全国を縦横無尽に駆け巡るフットワークであり、天才的な勘と詐欺師顔負けの話術を駆使して相手にカマをかけたり、嘘をついたり、時にはトラップを仕掛けたりなどして、警察も知り得ていない情報を引き出す能力になります。
なお浅見はわりと警察の力を借りることもあるじゃないか!というツッコミについては、ポイント①で浅見がいろんな人から話を聞くのはまさにRPGと表現したのを踏襲させてもらうと、RPGにおける一種の魔法と捉えて目をつぶってもらえると幸いです。
なおTVドラマでは定番の、警察が浅見の正体(警察庁刑事局長の実弟)が分かった途端に手の平を返すシーンというのは、それ以降は警察が浅見に協力することを意味するため、彼の独自の捜査をする必要が減ることになってしまい、面白さが半減するのでぼくは全く好きではありません。
そんなわけでポイントその③、
”浅見光彦は警察からの情報がない分を足と頭でカバーする”

浅見光彦を貫いている魅力の一つに「正義」という概念があるのですが(「とうとう達成!」)、彼の正義は実に柔軟で法などには縛られておらず、いつだって解決志向的な明快さがあります。
たとえば「神戸殺人事件」という話の冒頭で、女性がヤクザに絡まれているのに警察官が関わり合いにならないよう見て見ぬふりを決め込んでいる時、その女性を助けるために浅見が取った行動は・・・
なんと彼はその女性の首を絞め、女性が悲鳴を上げるとさすがに警察官は無視できずに近づいてきて、ヤクザはその場から去らざるを得なくなったのです。
もしくは「鐘」という話のラストで、ある屋敷の中で殺人が行われているかもしれないという状況において、一緒にいる警察がまだ捜査令状がないから中に踏み込めないと躊躇している時、浅見が取った行動は・・・
とりあえずぼくが建物の中に入るので、自分を不法侵入で捕まえるために入ってきて下さい、と警察に頼んで突撃していったのでした。
そんなわけでポイントその④、
”浅見光彦はやわらか頭の正義の味方である”

そしてこれが最後ですが、浅見光彦はいつだって読者の前から姿を消したりしません。
通常の推理小説の探偵は、読者が知らないところで秘密裏に何かを調べに行って重要な手がかりを発見していたり、その推理に至った経緯が明らかにされないことが結構あります。
一方浅見の場合は彼の見るもの、思考回路は基本的に全てが開示されていて、あたかも読者は一緒に行動しているかのような不思議な一体感を味わうことが可能です。
天才的な勘や発想の飛躍が見られることもあるため、推理が論理的でないと批判されることもあるようですが、その勘の根拠や発想の飛躍の契機については大体オープンになっているので、個人的には浅見光彦以上に読者がシンクロしやすい探偵は存在しないと思います。
そんなわけで浅見光彦シリーズを読んできたこの1年半は、ずっと彼と一緒に時空間を超える旅をしていたような至福感に満たされていたので、その分それを失う喪失感は通常の探偵とは比ぶべくもありません。
そんなわけでポイントその⑤、
”浅見光彦はいつだって傍にいてくれる”

以上をおさらいすると、
①浅見光彦シリーズは冒険小説である
②浅見光彦シリーズは事件そのものが面白い(犯人やトリックなんてどうでもいい)
③浅見光彦は警察からの情報がない分を足と頭でカバーする
④浅見光彦はやわらか頭の正義の味方である
⑤浅見光彦はいつだって傍にいてくれる
がポイントです。
今後ともよろしくお願いします。

 

 

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