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クリニックブログ

走馬灯

2019年03月31日

ある種のゲームをするのがeスポーツというスポーツに属するのもよく分からない話ですが、劇場公開がなくNetflixでのみ配信される作品でも映画に属するのも、なんだかピンとこないというのが正直なところです。
ぼくは基本的に古い人間らしく、映画はやっぱり小さな動画ではなく映画館で観たい派で、本も電子書籍ではなくリアル書籍で読みたい派になります。
なお浅見光彦シリーズは全114冊中のうち、最後の事件「遺譜」だけはハードカバーで読み、後は文庫で読みました。
これはたしか品川庄司の品川祐さんの言と記憶しているのですが、たしかにハードカバーで読むとやっぱり映画館で映画を観るような重厚感というか特別感があります。
映画ではエンドロールになると席を立つという人もいるそうですが、個人的には最後まで残る方です。貧乏性であることもその一因ですが、稀に全部終わった後で拍手する人には、ちょっと辟易してしまいますね・・・
では最後まで残る一番の理由は何かといえば、それはおそらく少年時代に観た「時をかける少女」のエンドロールに感動したから、で間違いありません。
あと前にもブログに書いたことがありますが、スポーツの試合を観た後のダイジェスト・ムービーも好きです(「ダイジェスト・ムービー」)。
というわけで前回で最後と宣言したものの、敬愛する宮崎駿監督にオマージュを捧げるつもりで、もう一発浅見光彦について、人が死ぬ直前に見るとされるパノラマ視現象のように、名場面でつなげていきたいと思います。
ちなみにダイジェストとは全体の流れをコンパクトに要約したものなので、今回企図しているものは厳密にいうと名場面=ハイライト集ということになるようですが・・・

”浅見はバスを使って、さっぱりした気分で出掛けた。「片瀬」という名前から、女優の「かたせ梨乃」を想起して、ちょっとした期待感さえあった。”(『琥珀の道殺人事件』より)
そしてこの顛末は、
”かたせ梨乃というよりは、どちらかというと痩せたソクラテスといったタイプの女性で、動作も機敏だ。大きなバストは残念ながら幻想に終わった。”
という相当に酷いものですが、ここで注目して欲しいのは女性蔑視の部分ではなく、「バスを使う」という表現の方です。
これは内田康夫先生のヘキなのでしょうが、浅見は入浴する時には地の文では風呂に入るのではなく、基本的にバスを使うのです。
独特だな~とずっと思っていましたが、なんとこれがジャブのように伏線になっていたとは・・・

”浅見は飲みかけのコーヒーを口許まで持っていった格好で、動かなくなった。動くと、せっかくの着想がこぼれ落ちてしまいそうだった。
「坊ちゃま、コーヒーがこぼれてますよ」
「ん?・・・・・・」
慌ててカップを動かしたものだから、かえってタプンと、コーヒーが溢れ落ち、床のカーペットを汚した。
「あらあら、大変!」
須美子の大袈裟な叫び声で、まとまりかけた着想が、雲散霧消した。
「変なときに声をかけるなよ」
浅見は珍しく須美子に文句を言った。”(『日光殺人事件』より)

”浅見は言葉を失った。これでは、いつまで経っても堂々巡りのようなものだ。さすがの浅見も、お手上げの状態であることを認めないわけにはいかなかった。
「いったい、僕をどうしようというのですか?僕に何を言わせたいのですか?」
「ははは、やっと分かってもらえたようですな」
田中は満足そうに言って、
「まあ、座りなさいや」
と元の椅子を指差した。浅見が黙って突っ立っていると、小池が「座れ言うたのが分からんのか」と怒鳴った。
浅見は全身の血が逆流するような怒りを覚えた。腕力に自信があるわけではないが、ほとんど反射的に小池の横面を張り倒したい欲望を感じた。”(『志摩半島殺人事件』より)

”「それで、殺したのか・・・・・・」
浅見は怒りで震えた。
「ああ、そうだ、殺した。四月五日の夜、隆子の死体を隅田川に沈めようと、私のボートに京子と辰子を乗せて、浜離宮前まで行った。池沢がヨットハーバーの会長を辞めた時に盗んでおいた万年筆やナイフやバッジを、死体と一緒に川へ沈めようという土壇場になって、辰子は急に騒ぎだしたのだ。津田隆子を本当に殺すなんて思っていなかった、と言うのだな。それでヒステリックに摑みかかってきやがったので、首を絞めて殺した」
「悪魔のようなやつだな」”(『隅田川殺人事件』より)

”ふいに、けたたましいクラクションが背後で鳴った。バックミラーの中で、赤いスポーツカーが目を剝くようにパッシングライトを光らせた。浅見は慌てて道路の左端に車を寄せた。その脇を、接触せんばかりに、かなりのスピードでスポーツカーは走り抜けた。乗っている二人の青年が、何か汚い言葉を投げて行った。何を言ったのかは聞き取れなかったが、浅見は反射的に激しい憎悪をその二人に感じた。
 冷静に考えてみると、あの二人の側も、坂の途中で意味なく停まっている車に、不快感を抱いたに違いなかった。しかし、それはそれとして、浅見は衝動的に憎悪を感じ、それはオーバーにいえば殺意に近いものであった。直接、殺すーというわけではないにしても、死ねばいいーとは、たしかに思った。あの無謀なスピードで走り下れば、カーブを曲がり損ねる危険は充分ある。赤いスポーツカーがガードレールを突き破って、谷底に放物線を描く情景が、あざやかに脳裏に浮かんだ。
(殺意かー)
浅見は人間の性のおぞましさを思わないわけにはいかなかった。”(『喪われた道』より)

”「いいですか、犯人が誰なのか特定されるまでは、あらゆる人間が犯人でありうるし、どこにでも犯人が存在しうると考えるべきなんです。早い話が、この車の中にだって犯人がいるかもしれない」
「えっ・・・・・・」
一恵はのけ反って、助手席側のドアを背中にぶつけた。
「この車の中って、まさか・・・・・・」
「いや、ほんとに犯人がいるかもしれませんよ。ただし僕が犯人でないことだけは確かですがね」
「えーっ、どういう意味ですか、それは?」
「あなたにだって、犯人である立派な資格があるっていうことですよ。いや、世界中で、もっとも疑わしいと言ってもいい。たとえば、あの乾杯の直前、グラスに毒物を投げ込むチャンスは、あなただけに与えられていた。しかも、自分のグラスには致死量以下の毒を入れることもできた。そして、見てもいない犯人の目撃談をでっち上げることも可能だった。それから・・・・・・」
「やめてー!・・・・・・」
一恵は悲鳴を上げた。
「鬼!鬼よあなたは。そんなこと・・・・・・私が父や母をあんな目に遭わせるなんて・・・・・・よくもそんなひどいことを、考えたり言ったりできるもんだわ。降ります!車を停めてください」
一恵は向きを換えて、ドアロックを外しにかかった。
「あっ、危ない、やめなさい!」
車は百キロを超えるスピードで走っている。急ブレーキをかけるわけにはいかなかったが、幸いパーキングエリアの標識が接近していた。
浅見は一恵の腕を摑みながら、急いで左折のウインカーを点滅させた。
「放して!放してくれませんか!」
一恵は本気でジタバタした。危なくてしようがない。
「放してもいいが、それじゃきみは、『紫式部』の謎を解かなくてもいいのか!」
浅見は怒鳴った。”(『「紫の女」殺人事件』より)

”「そうですねえ、しかし、どうせいただくならビールのほうがいいな。出来ればキリンの一番搾り、無ければ何でもいいです。つまみはいりませんが、キャビアなんかがあると幸せ・・・・・・」
浅見は話の途中で応接室を出た。
(アホじゃないのか、あいつー)
このクソ忙しいのに、何だってあんな風来坊みたいなやつのためにビールを選ばなければならないのかと思うと、腹が立つのを通り越して、われながら情けなかった。”(『薔薇の殺人』より)

以上、稀有な怒る浅見編でした。

”それを潮のように、キャプテンが「さあ、行こうか」と腰を上げた。そのときになって、部員の一人が便意を催した。仲間にからかわれながら、茂みの奥に入り込んだ。
この付近は灌木が多く、草が生い茂っている。あまり人には見せたくなく、また見たくもない、例のポーズを取るには、最適の場所ではあった。
「おい、なるべく遠くに行ってやれよ」
キャプテンの命令がなくても、恥ずかしがりの彼はどんどん茂みの奥まで入ってトレパンを押し下げた。
とたんに、異臭が鼻をついた。自分のモノの臭いはまだ発生していないにもかかわらずーである。しかし彼は、自分のモノの前触れかもしれないと思い直した。そして、本格的に目的の作業にかかったが、新鮮なそのモノの臭いとは、明らかに異質の、しかも強烈な臭気に、思わず吐き気を催した。
(何だ、これは?ー)
彼は本来の作業に文字どおり「ふんぎり」をつけて、臭気の発生源を確かめるべきかどうかを思案した。”(『博多殺人事件』より)

”「わざわざこのために来たのではなく、ピラミッド見物に来たついでにちょっと寄ってみたのです。しかし、何をしようと僕の勝手でしょう。それよりあなたこそ、こんなところで何をしていたんですか?」
「何をしてたってか?・・・・・・」
男は不機嫌そうに片頬を歪めた。
「自分は警察の人間だ。ちょっと腹具合が悪いもんで、キジ撃ちをしておった。そこに挙動不審者が現れたというわけだ」
浅見は思わず笑いそうになった。「キジ撃ち」とは野グソのことである。”(『十三の冥府』より)

以上、ストーリーの進行上、全く必要性のない野外ライブの二幕でした。これはもう完全に内田康夫先生の悪ノリと思われます。野外ライブの意味については、本ブログ「嵐の夜」「最後まであきらめずに」「見えないチカラ」をご参照下さい。

”「どうそ、お掛けになって」
浅見よりは十歳近くも下のはずなのに、堂々たる淑女ぶりだ。乗馬服が威圧感を与えるせいかもしれない。少し反りぎみに膝を組んだポーズの朝子と、真正面に対してみると、浅見はなんだか、SMの世界に入り込んだような、倒錯した気分になった。”(『日光殺人事件』より)

”コーヒーが運ばれる時になって、裏口からマスターの奥さんが子供を連れて帰ってきた。
浅見は、彼女の顔を見て、津軽の女性たちの共通のイメージだと信じた「津軽美人」の印象を、撤回しなければならないと思った。”(『津軽殺人事件』より)

浅見光彦は女性人気が高く、基本的にはフェミニストな好青年なのですが、こういう面もしっかり持っているところが男性人気もあるところではないかと思います。

”浅見の視線は、しかし、もう一つのベッドのほうに向いていた。そこにも同じような輸血用の器具が立っているが、ベッドには患者の姿はない。どこか、ほかの治療室で診察を受けているのか、それとも手術中なのか、ともかく、いつでも輸血できるようにセットしてある状態であることは分かる。
浅見は廊下の左右を確かめてから、その病室に入った。
三喜子は浅見の意図が分からずに、びっくりして眺めている。
浅見は空いているほうの輸血器具から、ビニールの袋を外して、部屋の外に持ち出した。もう一つのベッドの患者は眠っているのか、まったく浅見を見る様子もなかった。
「どうなさるの?」
三喜子は呆れて、非難するように言った。
浅見は黙って、いきなり着ているブルゾンを脱ぐと、その中に輸血用のビニール袋を丸め込むようにして隠して、廊下にあるベンチの一つに腰を下ろした。
(中略)
「呆れた、呆れた、なんてことするのかしら、ひどいわ、あれじゃまるっきり泥棒じゃないですか」
車に乗るやいなや、三喜子はヒステリックに叫んだ。
浅見はニヤニヤ笑うばかりで、三喜子の非難には何も答えない。”(『美濃路殺人事件』より)

いくら正義のためには手段を問わない、やわらか頭の正義の味方とはいえ、いくらなんでもコレはちょっとやりすぎなのでは?と、読んだ時には心配になったものでした。

”「グラッツェ」
浅見は日本式に丁寧に頭を下げた。
「何があったのか、話の道筋がとてもよく分かりました。しかし、警察は来ませんから、安心して下さい」
「え?・・・・・・」
通訳の真抄子も、伝え聞いたダニエラも、驚いて顔を上げた。真抄子が「どういう意味ですか?」と訊いた。
「石渡氏が死んだのは神の意志によるものだからです。それによって善良な人々が傷つくことは、神も望んでいないでしょう」”(『イタリア幻想曲』より)

浅見光彦シリーズの犯人は自殺ばかりと巷で噂され、実際に浅見は犯人には自殺を求める傾向がありますが、正義にのっとって犯人を赦すこともまたあり、これはその最も美しい例の一つです。

”「これはお約束の賞金です」
牟田はポケットから封筒を出した。聖骸布が出る前からすでに小切手を用意してあったらしい。ハッタリとも受け取られかねない浅見の宣言だったにもかかわらず、成功を確信していてくれたことに浅見は感激した。”(『イタリア幻想曲』より)

これをふまえて、

”「ないこともないです、が、いずれにしても今日はもう遅いから、バスを使って寝ることにしませんか。」(『遺譜』より)

それまでずっと地の文でのみバスを使っていた浅見が、最後の最後でついに実際にそのフレイズを口にしたことに小野は感激した。
ついでに、

”「こんな事件があったけれど、やっぱり岡山はのどかでいいところですねえ」
浅見は青山を慰めるように言った。”(『歌わない笛』より)

大好きな浅見に、わが岡山を褒めてもらったことに、再び小野は感激した。
さらに内田康夫先生がご存命の間に浅見光彦シリーズに出会え、軽井沢まで献花に行くことができ、命日である3月13日に最後の事件「遺譜」を読了して有終の美を飾れたことに・・・
改めて小野は強く感激した。
今後ともよろしくお願いします。

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