あれはたしか小学5年生の時でした。
その時のクラスは、担任の先生がスーパーゆとり教育の実践者だったこともあり、普通にマンガを持ってくることが許されていました。
そんなわけで休憩時間は、教室のあちらこちらで堂々とマンガを読んでいる生徒がいるのがごく日常的な光景だったのですが、ふと見るとF君が笑いすぎて悶え苦しんでいるところでした。
何がそんなに面白いのか気になったので彼のところに行き、
「どうした?」
と訊いてみると、彼は笑いが止まらずにしゃべるのもやっとという感じで、
「このマンガが・・・」
と読んでいる本の表紙を見せてくれました。
ちなみにそのコミックスは、藤子・F・不二雄先生の『T・Pぼん』 (タイムパトロールぼん)という作品で、ぼくはまだ読んだことがありませんでした。
「しゅっ、主人公が、、、ナミヒラ、、、ボン (並平ぼん)という、、、名前で、、、」
本人はあまりの面白さに改めて言葉にしようとしても、さらに思い出し笑いによりおかしさが増幅されているという悪循環に陥っており、ほぼまともに話せなくなっている状態でしたが、こんなに笑っている人を見るのは後にも先にも初めてだったので、根気よく続きを待つことにしました。
「てっ、、、てっきり、、、ナミヘイかと、、、思っていたら、、、ナミヒラって、、、」
と自分で言ったナミヒラというワードが引き金となり、目にはうっすら涙まで浮かべながら全身全霊による大爆笑ここに極まれり!といった感じだったのですが、今改めてあれからの40年で経験してきた笑いの知見と比較検討しても、全く共感することができないでいます。
さて、そんなF君はクラスの中では特に目立つ方ではなく、並平ぼんよろしく一見すると並で平凡な少年だったのですが、ある日の掃除時間に、クラスの中でやんちゃに分類される連中が、ほうきを白杖のように使い目の不自由な人のふりをして遊んでいました。
すると彼は、ふざけてもそんなことするなよ、と注意し始め、案の定、返り討ちにあい、ズタボロにされてしまったのでした。
実は彼の父親が盲学校の先生をしていて、おそらく彼の中では目の不自由な人に対しての並々ならぬ思いがあったであろうことを知ったのは、それから随分と時が流れてからのことになります。
彼とは大学生の頃を最後に縁が途絶えてしまっていますが、社会人になってからネットが普及するようになり、彼の名前を検索してみたところ、当時彼の会社でスタッフが順番にブログを書いており、彼の書いたものを読む機会を得ました。
その中で彼は点字ブロックを紹介しており、点字ブロックは岡山発祥なんですよ、とあっさり説明していたのですが、本当はその背後には熱い思いがいっぱい詰まっていたはずで、それ以来誰かがさらっと発信したように見える内容にも、そこには意外に強い芯が存在しているかもしれない、とスルーしないよう心がけています。
ちなみに本日は、岡山で点字ブロックが初めて設置された日にちなんで、点字ブロックの日です。
今後ともよろしくお願いします。
クリニックブログ
熱い思い
2025年03月18日