岡山県倉敷市阿知1-8-10 武部不動産ビル2F 倉敷 駅のほとりの心療内科 まくらぎクリニック

クリニックブログ

弾丸出張 (前編)

2015年03月29日

ついに北陸新幹線が開業して、東京-金沢間が2時間28分で行けるようになりました!
・・・って、そんなこと言われても元々どのくらいかかっていたのかも知らないし、たぶん一生乗ることはないと思うので正直なところどうでもよかったりします。ただこの頃、やたらと注目されているような気がするのが北陸の中でも金沢です。ぼくが初めて金沢に行ったのは2003年7月のことだったのですが、残念ながら日帰りのいわゆる弾丸出張でした。

当時のぼくは岡山市内の総合病院に勤務していて、神経内科という科に所属し脳梗塞などで入院している患者さんの担当をしていたのですが、実はかなり厳しい状況に置かれていました。というのも、前年の2002年12月に入院してきたある患者さんが訳ありだったからです。
その方は金沢市に在住の50歳ぐらいの男性で、長距離トラックで九州まで行った帰り道に脳梗塞を発症してしまいました。運転中に意識がなくなったのにもかかわらず事故にはならなかったのは奇跡であり、また不幸中の幸いとしか言いようがありませんでした。そしてトラックが停車した場所の近くにその病院があったため救急車で搬送されてきて、ぼくが担当することになりました。
脳梗塞は左脳の2/3という広い範囲に及び、意識は全くなく右半身は完全に麻痺という状態でした。さらに悪化してしまうと死に至る危険性もあり、たとえ生き長らえたとしても重い後遺症が残る可能性が高いことは明らかでした。とても本人からは話が聞ける状態ではなく、会社に問い合わせてみるとその人は独身で身寄りもいないことが発覚しました。しかも病状の深刻さを察した会社はただちに彼を解雇してしまい、身元引受人も健康保険もない状態での入院となってしまいました。しかし、だからといって治療を怠るわけにはいきません。脳梗塞の治療はかなり高額になりますが、ガイドラインに従って治療を開始しました。その甲斐もあってか命は大丈夫でしたが後遺症は重度で、全ての言語機能が侵される全失語と呼ばれる症状と右半身の完全な麻痺が残ってしまいました。通常であればこの時期になるとリハビリが中心になるため、それに適した病院ないし施設に転院してもらうことになります。しかし、この方のように身元引受人も健康保険もない人を紹介などできず、1ヶ月、2ヶ月と入院期間は長引いていきました。そこは急性期型の病院であったので入院期間の短縮や売上についてはかなりうるさく、その方が問題視され上層部からいろいろとプレッシャーをかけられることになったのは当然の帰結でした。というわけで、まずは医療費の問題を解決すべく金沢市役所に電話をかけて生活保護にしてくれるようお願いしてみたところ、
「金沢市は全国的にも生活保護の少ない都市なんです、だからダメです」
という返事だったので
「なるほど、それなら仕方ないですね・・・ってコラ!」
な~んて思わずツッコみたくなりましたが、それでもめげずに気持ちを切り替えて市役所のウェブサイトを見ていると市長あてにメールを送れるようでした。そこで今回のいきさつと市役所の対応についてをメールしてみたところ、すぐに返信がありそこにはおわびの内容が綴られていました。そこからはとんとん拍子で進展していき、無事に生活保護にもなれたのでひとまず医療費の問題はクリアされ、さらには転院先も金沢市が探してくれることになりました。
やれやれ、これにて一件落着!かと思いきや・・・
世の中そんなに甘くはありませんでした。金沢市には岡山から金沢まで患者さんを運ぶことはできないと言われ、病院間の搬送はこちらでしなければならなくなってしまいました。そこで現場の医師のトップである診療部長に相談すると
「そんなのは絶対にこちらではしない」
とのことで、せっかくいい感じで進んでいた話も頓挫してしまいました。そんな風にして行き詰まっていたある日、金沢から1本の電話がかかってきました。電話はその患者さんが以前に働いていた職場の社長さんからで
「まだ金沢には帰れないのですか?」
と訊かれたので、
「実は金沢まで運ぶ手立てがないんです」
と答えると思いがけない提案がありました。
「私が連れて帰ってもいいですよ」
これっぽっちも予想していない展開だったので驚いてしまいましたが
「本当にいいんですか?」
と改めて確認すると、
「もちろんです、できれば先生が一緒だと助かります」
と快諾してくれました。やれやれ、今度こそこれにて一件落着!かと思いきや・・・
やはり世の中そんなに甘くはありませんでした。またしてもぼくの前に立ちはだかったのは前述の診療部長で、
「ダメだ、君が一緒にいると搬送中に何かあったら病院の責任になる。その人だけで連れて帰ってもらうようにしなさい」
と言われてしまいました。おそらく社長さんは、ぼくがいなくても患者さんを運んでくれたに違いありません。でも、さすがにそれは人としてどうかと思い、
「もしも何かあっても、問題にするような身内も誰もいないんだから心配いりませんよ」
と説得してみました。その結果どうにか金沢までの出張許可が出ましたが、予想どおり日帰りの強行スケジュールでした。そして当日、金沢からはるばるやって来てくれた社長さんの車に患者さんと乗せてもらい、多くの病院職員の方々に見送られて出発しました。
とりあえず長くなってしまったので、今回はこの辺りでひとまず終わりです。
次回もよろしくお願いします。

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